「コンセプトとは何か」とか「どうやってコンセプトを作るか」という問いに対しては色々な考え方があると思います。
しかし、コンセプトが必要となる場面や目的について具体的に考えると、むしろ独自性が高く有効なコンセプトが作成しやすくなります。
この記事では建築や設計課題のコンセプトについて、作り方や例、目的から考えた意味などを紹介しています。
- 建築や設計課題のコンセプトとは
- 要素の組合せで生まれる独自性がコンセプトになりやすい
- 建築設計課題のコンセプトの作り方
- 後付けでコンセプトを考える場合
- 目的から逆算すると有効なコンセプトが作りやすくなる
建築や設計課題のコンセプトとは
建築設計課題のコンセプトとは建築作品の説明や作成に用いるテーマです。コンセプトは主に作品発表やプレゼンテーションの段階と構想や設計など制作の段階で使います。
作品発表やプレゼンの時にコンセプトによってテーマを簡潔に示す
例えば設計課題のプレゼンの初めに、
- 地産地消のマーケットを開く施設
- 建物に地元の木材を使っている
- 地元の人が気軽に使えるホールがある
- この地域で伝統的な構法を使って建てた
- ランドマークになるシンボリックな形状である
といった具合に自分の設計で工夫した部分を列挙したとします。
これでもなんとなくイメージが伝わるとは思いますが、情報が雑多であまりスマートな説明とみなされません。
それに対して、プレゼンの初めに「コンセプトは『地元の資源と食を活性化する複合施設』です」と言うとします。
そうすると何故マーケットに地元の木材を使ったり、ホールを併設したり、伝統的な構法にしたり、ランドマークにする必要があるかの理由が伝わりやすくなります。
建築作品は様々な要素が複合しており、個々の要素を語っていくだけではなかなか全体像が見えません。
そこで最初に様々な要素を統括するテーマとしてのコンセプトを表明することで、プレゼンを聞く人にとって格段に理解がしやすくなります。
作品を制作する時にコンセプトによってイメージを方向づける
コンセプトは作品を作っていく過程にも有用に働きます。コンセプトによって「この作品では何をして、何をしないか」を方向づけることが出来るからです。
例えば「美的な空間をじっくり体験できる美術館を作りたい」と思っていたとすると、
- 敷地は静かで十分な広さが取れる場所から選定する
- 展示室は素材や色彩で統一感をだしてより空間を感じられるようにする
- ワークショップ室は展示室から距離を置いてメリハリをつける
- 図書室は展示室と一体的に感じられるように配置する
といったふうにイメージの方向性が決めやすく、設計を進めやすくなります。 また重要なのは「空間自体をじっくり体験できる」ことだと分かっていれば、アイディアに優先順位をつけやすくなります。
例えばトイレの配置など、この場合あまりメインでないと思われる部分の設計に力を入れすぎずに済みます。
要素の組合せで生まれる独自性がコンセプトになりやすい
建築にはさまざまな要素があります。形状、素材、構造、機能、敷地の特性などが複雑に絡み合って成り立っています。
建築設計とはそういった要素群の構成をコントロールしていくことでもあります。
そして要素を構成していくと、時に単に「AとBがある」というだけなく、独自の関係性が生まれることがあります。
それがその設計の持つ独自性であり、コンセプトとして表現されているもののことが多いです。
例えば最近はコインランドリーにカフェが併設されたものがあるそうですが、おしゃれな洗濯グッズが売っていたり、アイロン掛けのワークショップが開かれたりしているそうです。
それは単に「コインランドリーとカフェ」という以上の様々なプログラムが生まれています。そしてそれこそがそのコインランドリーの独自性(=コンセプト)といえます。
このように建築設計のコンセプトとは「要素同士の関係性から生まれる独自性を簡単に表現する言葉」とも言うことができます。
建築設計課題のコンセプトの作り方
世の中には色々なコンセプトの作り方があると思いますが、なるべく簡単ですぐに作れる方法をご紹介します。
コンセプトメイキングの手順
前述の通り、建築は多くの要素が組み合わされており、要素たちの関係性によって表現される独自性がその設計のテーマ=コンセプトと考えられます。
逆に考えると、特別な関係性を感じられる要素の組み合わせを作ることで、簡単なコンセプトを作ることができます。
具体的には以下のような手順で設計コンセプトを作ります。
- 設計するにあたりあらかじめ決まっている要素を洗い出します。「課題は美術館の設計」「建築面積、容積率、各室の面積」「敷地の性質」などです。
- 次に設計で実現したいことを数え上げます。「優美な曲面を使った形」「地域に解放された施設」「大きな展示室」「自然光の取り入れ」とか、この時点ではなんでもいいです。
- 1の条件によって実現が難しそうなものを2から除外します。例えばたいして敷地が広くない場合「大きな展示室」は実現しない可能性があります。
- 残った要素のうち、設計の肝になるものを選び、建築の機能と一緒に並べます。ここでは「自然光(要素A)」「優美なカーブ(要素B)」「美術館(機能)」としたとします。
- 4をまとめてコンセプトとなる言葉を作ります。基本は「要素A(と要素Bと、要素Cと…)のある〇〇(施設の機能)」という形が収まりが良いです。この場合は例えば「自然光と曲線美の美術館」という感じです。
このように要素を列挙することによって、要素と建築の機能が対比され、特別な言葉を使わなくても何か新しい関係性が想像されるようになります。
また、適度に性質の遠い要素を選ぶとユニークなコンセプトになります。
コンセプトメイキングの注意点
選んだ言葉が機能面などで矛盾していると設計が難航しやすくなります。例えば「都市の中にある牧場」というコンセプトを考えたとします。
普通都市部に牧場は見かけないので、何かユニークな感じがします。また都市部にあるということから、本来の意味での牧場ではなく食育やレジャーの側面が強い施設になるかも知れません。
しかしそういった想像が膨らむと同時に、都市(土地が狭い)と牧場(広い土地が必要な施設)はわりと矛盾がある言葉なので、設計が難航する可能性もあります。
このようにコンセプト作りはバランス感覚が求められます。ただ言葉に多少の矛盾があっても設計によって乗り越えられる場合もあり、それが建築設計の醍醐味の1つでもあります。
後付けでコンセプトを考える場合
ある程度設計を進めていてコンセプトを軌道修正したい場合や、あまりコンセプトについて考えないまま設計が進んでいた場合などがあります。
この項ではそういった場合にコンセプトを後付けする方法について述べます。
- 設計に関わっている要素を数え上げていって、重要度の高いものをいくつかピックアップします。その時それぞれの言葉が矛盾していないか注意します。
- 先述のやり方と同じく、「要素A(と要素Bと、要素Cと…)のある〇〇(施設の機能)」の形にまとめます。
- ピックアップした言葉に矛盾などがあってコンセプトメイキングが難航した場合、「その言葉はメインの要素ではない」と割り切って使わないでおくと、コンセプトメイキングがスムーズに解決する場合があります。
目的から逆算すると有効なコンセプトが作りやすくなる
詩的だったり極端に短かったりするコンセプトもありますが、基本的には作品制作の時とプレゼンや発表に役立てば十分有用なコンセプトではないかと思います。
今回紹介したコンセプトの作り方は、やりようによっては詩的なコンセプトやキチンと説明を述べるタイプのコンセプトも作れると思います。
もし自分の設計について何も思い浮かばない時などはとにかく言いたいことを並べて、そこから言葉を選んでいくのが有効だと思います。