建築学科の学生や建築設計に携わる方は頻繁に作品発表やプレゼンテーションなどで、自分の設計について話す機会があります。
プレゼンの作り方はいろいろな考えがあり正解はないのですが、聞き手が理解しやすくなる話し方や順序にはある程度決まりがあります。
それを押さえると、プレゼンの理路が整理され、かえってオリジナリティも演出しやすくなります。
この記事では、建築や設計課題のプレゼンの構成や流れを、設計の内容や規模に関係なく組み立てられる方法についてお伝えします。
プレゼンの目的はどのような設計でコンセプトを実現したかを説明すること
プレゼンの演出や言い回しに正解はありません。詩のような言い回しや、厳密なロジックの展開も、目的が達成できればそれで十分有用と言えます。
一方、プレゼンで達成すべき目的はほとんどの設計で共通しています。建築設計におけるプレゼンの目的とは、掲げたテーマやコンセプトを建築作品によってどのように実現したかを伝えることです。
言い換えると、「地域の課題解決」や「美しい空間の実現」といったテーマに対してどうやって建築設計で答えたかを伝える訳です。建築はさまざまな属性が複雑に絡み合って成り立っているため、聞き手に課題とその達成方法を伝えられるプレゼンを組み立てるのが重要です。
仮に、詩的な言い回しや複雑な論理を展開するようなプレゼンをやりたい場合でも、骨子を作ったあとで言い回しを調整した方が上手く行きやすいです。そのため、今回は「テーマやコンセプトを建築でどう実現したか」が伝わるプレゼンの組み立て方をお伝えします。
プレゼンの作り方1:全体の時間配分を組み立てる
まず、確実に話し切るために、時間配分を計画します。講評会などでは、プレゼン数分間+質疑応答というような形式が多いかと思います。その場合自由に使える時間はプレゼンの数分間です。
参考として、1分間に話す字数は300文字程度と言われています。よってプレゼン1分につき300字の原稿を用意することで時間配分が正確になります。
プレゼン時間が5分の場合
持ち時間5分間のプレゼンテーションの場合、余裕時間を30秒見込みます。
これは、始めと終わりの挨拶、話し方がゆっくりすぎた場合のズレの吸収、プレゼンの最中に質問やコメントなどがあった場合の対処などに使う時間です。
そして残りの4分30秒で以下のように組み立てます。
[はじめのパート]
テーマ全体を話す(1分間)
コンセプトなど、設計で実現を目指したテーマについて話す。
[2番目ののパート]
設計について具体的に工夫したことを話す(3分間)
設計作品によってテーマをどのように実現したかを具体的に話す。
[最後のパート]
総括する(30秒)
設計作品のテーマをもう一度述べ、結びの言葉にする。
始めにテーマについて話すことで、以後の説明がわかりやすくなります。そして次の3分で具体的に設計について話し、最後に設計を総括します。
聞き手はプレゼンの始めの方を覚えていないことも多いため、総括を入れることで後の質疑応答などで中身のある議論ができる可能性が上がります。
また、この流れだとプレゼン中の質問などがなかったら余裕時間が余ることになりますが、その場合は最後パートで話す結びの言葉を少し丁寧に話して消化します。
アドリブが難しい場合は、余った時間は捨ててプレゼンを早めに切り上げるのも手です。
逆に時間に余裕が無くなってしまったときには、最後のパートを切り捨てます。
ここは話の内容をわかりやすくするためのパートなので、なくても説明としては成り立ちます。
プレゼン時間が長い場合や短い場合
プレゼン時間が5分より長い場合、基本的には[2番目のパート]を延長します。
ただしプレゼン時間が10分を超える場合は、話すスピードによる時間のズレが大きくなったり、途中の質問が多めになったりする可能性があるので、余裕時間を多く見込んで残りの時間を[はじめのパート]と[2番目のパート]を中心に全体に分配します。
逆にプレゼン時間が3分など短い場合、言いたいことを[はじめのパート]と[2番目のパート]だけで言い切れるように調整して、[最後のパート]を切り捨てます。
最後のパートは長めのプレゼンを締めたり、聞き手にテーマをリマインドするパートなので、プレゼン時間があまりに短いなら、なくても全体の印象はあまり変わりません。
プレゼンの作り方2:設計コンセプトを軸にプレゼンの各パートを組み立てる
ここでは時間配分した各パートにおいて、具体的には何をどのように話すと良いかをお伝えします。
はじめのパート:設計全体のテーマやコンセプトを話す
設計全体のコンセプトやそれに関連するメインプログラムについて述べます。以下のような話し方が大抵の場合有効ではないかと思います。
1)コンセプトやテーマを話す
「設計のコンセプト/テーマは〇〇です」
2)問題提起とその解決方法を話す
「(地域などの)課題として△△があり、それに対してプログラムAとプログラムBの機能を持った施設Cを提案します」
「施設Cによって△△という課題が□□のようになります」
設計のテーマが明確でない場合は、上のような文章に作品の属性を当てはめて足りない部分を明確にして補完していくといいかもしれません。
また、以下の記事にコンセプトの作り方を書いたので、参考にしてみてください。
2番目のパート:設計作品のテーマをどのように実現したかを話す
設計の具体的な工夫をプレゼンするパートです。
プレゼンに臨むために、平面図・立面図・断面図など図面各種、模型、パース、ダイアグラム、スケッチなど、建築作品を説明するさまざまな材料を用意しているかと思います。
まず、これらの材料をを縮尺の大小で3〜4段階ほどに分類します。そして、それぞれの段階で「どのようにコンセプトやテーマが実現されているか」を話します。
例えば、コンセプトが「緩やかに生活を開いて暮らす集合住宅」だったとします。その場合、縮尺が小さい情報から順に、各レベルについて以下のよう話していきます。
コンセプト:「緩やかに生活を開いて暮らす集合住宅」
1)縮尺が小さいレベル(敷地周辺図やリサーチ結果など)
「リサーチの結果、地域に交流施設がなく世代間でお互いを知る機会が少ないことがわかりました。そのため、地域の人同士が緩やかにお互いを知れる集合住宅を設計しました。」
2)縮尺が中くらいのレベル(配置図や敷地模型など)
「建物を〇〇のように配置することで、敷地周辺にも適度に生活が開かれ、地域交流を促すようにしました」
3)縮尺が大きいレベル(平面図・立面図・断面図、模型など)
「各住居の間取りや開口を〇〇のようにして、住民同士が交流のきっかけを持てるようにしました」
4)建物が使われているイメージ(パース、スケッチ、詳細模型など)
「生活の開き方を各住人がカスタマイズすることで、多様な風景が展開されます」
課題に対して掲げたコンセプトが設計のどの部分でも機能していることを示すことで、課題設定(テーマ/コンセプト)とその解決方法(設計)の関係を端的に伝えられます。
また、実際のプレゼンでは全体を同じ密度で話す必要はありません。設計の肝はどのレベルにあるのか、図面や模型が充実しているのはどのレベルかなどによって説明の密度を調整するのがいいと思います。
最後のパート:テーマやコンセプトを述べて締める
最後にテーマやコンセプトを述べるのは、聞き手へのリマインドの意味が強いので、始めに話した内容より簡略化しなるべく一言で短くまとめます。
総括の例:
「以上のように、この設計では△△を課題ととらえ、プログラムAとプログラムBの機能を持った施設Cを、〇〇というコンセプトで設計しました」
上の例のような言い方をすると、聞き手が設計コンセプトを思い出してくれて、内容のある質疑応答にもつながりやすくなります。
おわりに
私は講評会などで設計について話すこと自体は割と好きでした。
プレゼンについて苦手意識を持っている方は、とにかく話す順序を決めてしまって、それにそってプレゼンボードや模型を作り込んでいくスタイルをおすすめします。